俺はいわゆる「弱男」だ。
身長170cm、体重は言わない(言えない)、顔面は平均以下、コミュ力は地下1階。大学3年生にして彼女経験ゼロ。サークルも入っておらず、休日の予定欄はいつも清々しいほど白紙だ。
そんな俺がTinderを始めた。
動機は不純でも純粋でもなく、ゼミの先輩がTinder(ティンダー)で彼女できたと自慢してきて、腹が立ったからだ。
ゼミの先輩のイメージ画像↓

こんなやつでも彼女できるんだから、俺でもできるだろう。
Tinder無課金勢という名の修行
アプリをインストールして、プロフィールを作った。
写真は自撮り2枚。1枚目は「なんか光の当たり方がギリギリ人間に見える」写真。2枚目は「なんか遠くを見つめていたら偶然撮れた」写真。
プロフィール文はこう書いた。
大学生です。映画と読書が好きです。よろしくお願いします。
今思えば、就活のエントリーシートより個性がない。
結果、1週間でマッチ数ゼロ。
右スワイプした数だけは立派に育っていった。誰にも届かない「いいね」を量産し続けた1週間だった。虚無。
Tinder課金勢に、人は時に2,400円で尊厳を買う
「無課金勢に人権はない」——Tinderの世界はそういう仕組みらしい。
1週間プランで約2,400円。バイト代3時間分。「この3時間分の労働で何かが変わるのか」と自問しながら、震える指でボタンを押した。
課金した翌日。
通知が来た。
マッチした。
スマホを2度見した。3度見した。アプリを再起動して確認した。本物だった。
テンションが上がって、思わず部屋でガッツポーズをした。誰も見ていない部屋で。一人で。静かに。
Tinder課金1週間の戦績
結果を正直に言う。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 右スワイプ数 | 数えてない(多い) |
| マッチ数 | 3人 |
| 返信が来た数 | 1人 |
| 既読無視された数 | 2人 |
| 実際に会えた数 | 1人 |
| 連絡先交換 | できず |
| 交際に発展 | ゼロ |
| 自己肯定感の増減 | ±0(現状維持) |
マッチした3人のうち2人には、送ったメッセージが宇宙の彼方へ消えていった。
残り1人——Bさん(仮名)だけが、返事をくれた。
Bさんとのやりとり
Bさんは俺より1つ年上の、専門学校生だった。プロフィールに「映画好き」と書いてあった。
「映画好きなんですね!最近観たのは何ですか?」
我ながら模範的なファーストメッセージだ。どこかの攻略サイトで読んだ。
返信が来た。映画の話をした。音楽の話をした。お互いの学校の話をした。気づいたら毎日少しずつLINEみたいな感覚でやりとりするようになっていた。
3日後、Bさんから「今度会わない?」と来た。
俺は「ぜひ!」と送った。
送ってから5分後に「!」いらなかったな、と後悔した。テンションが出すぎている。こりゃまいったまいった。
当日、俺は30分前に着いた
待ち合わせは近所の公園、夜の7時。
俺が到着したのは6時30分。
早すぎる。どう考えても早すぎる。でも緊張して家にいられなかった。ベンチに座って、スマホをいじるふりをしながら、「ちゃんと喋れるかな」「変なやつだと思われたらどうしよう」「というかそもそも来るのかな」「俺、今日下痢じゃないよな」などを高速で考え続けた。
7時ちょうど、Bさんが現れた。こういうことは言いたくないが、Bさんは完全なデブスだった。デブスとは、デブでブスの短縮形だ。
写真よりだいぶふっくらしていた。でも笑顔で「こんにちは!」と言ってくれて、俺の脳内の心配が全部どこかへ飛んでいった。
「こんにちは」と返せた。人間として最低限の挨拶ができた。合格。
1時間半にもおよぶデブスの愚痴
ベンチに並んで、最初は映画の話をした。順調だった。
ところが30分ほど経ったあたりから、Bさんの話がじわじわとシフトしていった。
専門学校の人間関係がしんどい、という話だった。
グループの中で浮いている。仲いいと思ってた子に陰で悪口を言われていた。先生も頼りにならない。地元の友達は遠くにいる——。
俺は聞いた。
というか、聞くしかなかった。気の利いたことが言えないから。でも「うん」「それはしんどいね」「そっかそっか」だけ言いながら、ひたすら隣に座っていた。
俺、今日はチャットジーピーティーだわ、と思いながら。
1時間半後、Bさんが「なんか話せてよかった。ありがとう」と言った。
俺は「こちらこそ」と言った。
こちらこそ、何?という感じだが、他に言葉が出なかった。
連絡先を聞けなかった男の末路
そこで沈黙が来た。「じゃあそろそろ」という空気が流れ始めた。
俺の脳内では「連絡先聞いて!!!」という声と「でも雰囲気的にどう切り出せば!!!」という声が激しく戦っていた。
結果。
何も言えなかった。
Bさんは「またね〜」と言って、夜道を歩いて帰っていった。
俺はしばらくベンチに座ったまま、暗くなった公園を眺めていた。
「またね」って言ったよな。「また」ってことは次があるってことだよな。でも次がどこにあるのかわからない。
これは負けなのか
帰り道、頭の中で採点してみた。
一般的に言えば「負け」だ。連絡先なし、約束なし、発展なし。Tinderは今週末には課金期間が終わる。完全試合のような「何もなかった」に見えなくもない。
でも、だ。
俺、女の子と1時間半、公園のベンチで話したぞ。
生まれて初めてじゃないか、これ。
愚痴を聞いただけかもしれない。カウンセラーの代わりかもしれない。でも確実に、現実の女性の隣に座って、笑って、うなずいて、話した。それは紛れもなく俺の体験だ。
引きこもって「いつか出会いがあればいいな」と思っているだけでは、一生起きなかったことだ。
まとめ:弱男、一歩前進
- 課金しないと始まらない(無課金に人権はない)
- プロフィール文は「よろしくお願いします」より個性を出せ
- 連絡先は聞けるときに聞け(後悔する)
- 愚痴を聞くのも立派な「会った」のうちに入る
- 弱男でも、外に出れば何かが起きる
Bさん、あなたの愚痴を1時間半聞いた夜は、俺にとってはわりと人生の名場面です。
またどこかで会えたら、今度こそ連絡先聞きます。たぶん。きっと。……頑張ります。
同じような弱男がいたら、とりあえずTinderに課金してみてほしい。三振するとわかっていても、バッターボックスに立たないと、その先のホームランは見えないから。
追記:後日、振り返ると、別に連絡先は聞きたくないことがわかった。美人の連絡先が欲しい。今回は以上です。